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舞台『兄おとうと』

大正デモクラシーを主唱した思想家で政治学者だった吉野作造の生涯を、高級官僚の道を選んだ10歳年下の弟・信次との対比で浮き彫りにする評伝劇です。
兄と弟のあいだにはゆるぎないきょうだい愛があるのですが、政治の主役は国民にあるとする兄と国家主導による統治こそ正しいと信じて疑わない弟の立場は平行線をたどったままで打ち解けあうことができません。

主題が政治思想なのでどうしても固い話が多くなりますが、井上作品ならではの親鳥がかんで雛に与えるように練られた台詞群が素直にあたまに入ってきます。
右翼青年の襲撃、袁世凱の娘の来日、説教強盗との交流など、事件性あるエピソードが笑いとともに散りばめられていて、気持ちがそれることなく惹きつけられました。
兄弟と結婚したこちらも仲良し姉妹の妻ふたりがなんとか夫達を和解させようと奮闘する様子も心がなごみます。

4人の兄弟姉妹とその周りの幸せに暮らしたいと願う人々の気持ちをよそに日本は暗黒の時代に進み、作造は病に倒れます(1933年=昭和8年逝去)。
第二次大戦のあまりにも大きすぎる犠牲を払ったのち、ようやく日本に民主主義がもたらされることになります。
作造はまた、貧しい人々のための病院や保育所など本来国家がなすべき福祉活動に私財を投じてもいました。

例外はありますし完璧でもありませんが(とくに昨今の不景気では)、なんとか飢えることなくなにかあればとりあえず医者にかかれ、なにより自由にものをいっても殺されないという今の私達がそれは当たり前のことでしょうとおもっている状況を実現するために命がけで取り組んだ人がかつていたことを知らせたい、という作者の強い意思を受け取りました。


こまつ座 第八十八回公演・紀伊國屋書店提携
『兄おとうと』
2009年7月31日金曜日~8月16日日曜日(全17ステージ)
紀伊國屋サザンシアター
CoRich情報

作:井上ひさし
演出:鵜山 仁

全席指定
入場料 5,250円
学生割引 3,150円
※中学、高校、大学、各種専門学校ならびに演劇養成所の学生は3,150円に割引。

べきら観劇日:
2009年8月11日火曜日13:30~

上演時間:3時間(15分間の休憩1回を含む)

【物販】
・こまつ座季刊誌『the座』NO.51改訂版2009年号 800円(本体761円)
B5/34P 表紙カラー、本文モノクロ
※実質的な公演パンフレットになります。
吉野作造を芝居にしようとした経緯を語る井上氏の冒頭文、演出家・鵜山氏と6人の俳優陣、ピアニスト・朴 勝哲氏それぞれの作品への想い、多くの資料写真と年表で構成された吉野作造特集など厚みのある内容です。
なかでも舞台監督・大内敦史氏による稽古場レポ「『兄おとうと』の稽古場から」のなかに掲載された「転換表」が興味深くて細部までじぃ~っと見入ってしまいました。
舞台上の、観客からはみえないところで活動するスタッフの守備位置、シャンデリアから湯呑まですべてのものにIN、SET、OUT、移動の担当者名が記入されている様子など驚くほどの綿密さです。
大内氏のレポにもある通り、今回の舞台は転換が「暗転」ではなく「明転」で、薄暗い舞台上を忍者のように動くスタッフの姿が観客席からもみえました。
あの素早い動きはこれほど厳密な役割分担に基づいていたのかと、舞台作品づくりの奥の深さを実感しました。
↓そのほかの内容など
連載「演出家の時代 第六回 島村抱月(下<後>)」 扇田昭彦
こまつ座2009年の上演予定
付録「兄おとうと劇中歌歌詞集」

兄おとうと









物販はこのほかに『the座』バックナンバー、井上氏著書など多数。

【当日パンフレット】
未確認


こまつ座を観にいくときは、痛くない歯医者にいくように安心な気持ちになります。
痛くない観劇とは、「出演者全員の台詞がはっきりききとれる」ということです。
1年間に100本前後の演劇作品を観ることができるという恵まれた環境にありますが、このことを達成している作品には意外なことになかなか出会うことができません。
なかでも作造役・辻 萬長さんの言葉は出色に頼もしく、前の席でも今回のように後ろの席でも等しく目の前で語りかけられているように届きます。

作造の妻玉乃(たまの)役・剣 幸さんの歌声も、透明感と力強さが遠い席も確実に酔わせました。
次女らしい可愛さの君代役・高橋礼恵さんとともに、女性の「善」の部分のみを抽出した天女のような姉妹でした。
五役を演じた宮本裕子さんの変幻自在には舌を巻きました。
最初の二役は別人の女優だとおもっていて、三役目の「美琴」で声を覚えてようやくのことでもしかしたら同一人物?と気付いたのです。
五役目の「お春」のしたたかさが堂に入ってるだけ、さらりと歌われた最期の悲しみがいっそうつのりました。

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